秒トレ「社労士」判例科目に取り上げられている重要判例の「背景・争点・結論」をまとめました。
秒トレと併用し、必要に応じご活用頂ければと思います。
なお、さらに事件の詳細を知りたい方は、以下の書籍が良くまとめられており管理人も愛用しておりますので、必要に応じ御覧ください。
ノース・ウエスト航空事件
① 背景
- 関係者:定期航空運輸事業を営む会社とその労働組合。
- 主張:労働組合は、会社が職業安定法第44条に違反していると主張。
- 要求と対応:労働組合は会社に対して改善を要求。会社はこれに一部応じ、改善案を発表。
② 争点
- ストライキの実施:労働組合は、会社の改善案に不満を持ち、部分ストライキを実施。
- 休業の命令:ストライキにより、ストライキに参加しない労働者の労働が無価値となり、会社はこれらの労働者に対して休業を命じる。
- 法的解釈:この休業が労働基準法第26条「使用者の責に帰すべき事由」に該当するかどうかが争点。
③ 結論
- 法的解釈:労働基準法第26条の「使用者の責に帰すべき事由」は、民法第536条第2項の「債権者の責に帰すべき事由」よりも広い解釈を持つ。
- 判決の内容:会社がストライキに先立ち労働組合の要求を一部受け入れ、改善案を発表したにもかかわらず、労働組合が自らの判断でストライキを決行した場合、そのストライキによりストライキ不参加労働者の労働が無価値となったため、会社がこれらの労働者に対して命じた休業は「使用者の責に帰すべき事由」によるものとはいえない。
大日本印刷事件
① 背景
- 採用内定の経緯:
- 大学卒業予定者が企業の求人募集に応募。
- 入社試験に合格し、採用内定の通知を受ける。
- 企業からの要求に応じて、大学卒業後の入社と、一定の取消事由がある場合の採用内定取り消しに異存がない旨の誓約書を提出。
- 企業とのやり取り:
- 企業からはパンフレット等の送付があり、応募者も企業の指示に従って近況報告書を送付。
② 争点
- 労働契約の成立:
- 大学卒業予定者と企業間で、就労の始期を大学卒業直後とし、誓約書記載の採用内定取消事由に基づく解約権を留保した労働契約が成立したかどうか。
- 採用内定取消の事由:
- 企業が留保解約権に基づいて採用内定を取り消す事由が、採用内定当時知ることができず、また、知ることが期待できないような事実に限られるかどうか。
- 解約権の濫用:
- 企業が採用内定を取り消す行為が解約権の濫用にあたり無効であるかどうか。
③ 結論
- 労働契約の成立:
- 大学卒業予定者の応募と企業の採用内定通知は、労働契約の申込みと承諾であり、誓約書の提出により労働契約が成立したと認められる。
- 取消事由の限定:
- 採用内定の取消事由は、採用内定当時知ることができない事実に限られ、客観的に合理的で社会通念上相当と認められるものでなければならない。
- 解約権の濫用と無効:
- 企業が採用内定を取り消す行為は、解約権の濫用にあたり無効であると判断された。
此花電報電話局事件
① 背景
- 年次有給休暇の指定:
- 労働者が年次有給休暇の時季を当日直前に指定。
- 使用者の時季変更権行使:
- 労働者の指定した休暇の期間が開始または経過した後、使用者が時季変更権を行使。
② 争点
- 時季変更権の効力:
- 労働者の指定した休暇の期間が開始または経過した後に行われた使用者の時季変更権の行使が適法かどうか。
- 行使のタイミングと事情:
- 労働者の休暇請求が始期に接近して行われ、使用者に事前の判断余裕がなかった場合の時季変更権の行使の適法性。
- 休暇請求と事業運営:
- 労働者の休暇請求が事業の正常な運営を妨げる可能性と、使用者の休暇理由聴取の試み。
③ 結論
- 時季変更権の適法な行使:
- 労働者の休暇請求が始期に接近して行われ、使用者に事前の判断余裕がなかった場合、客観的に時季変更権を行使できる事由があり、その行使が遅滞なくされた場合、時季変更権の行使は適法と認められる。
- 具体的事例の判断:
- 労働者の休暇請求が当日の朝にされ、事前に時季変更権を行使する余裕がなく、休暇請求が事業運営を妨げるおそれがあったが、使用者が休暇理由を聴取しようとした後、労働者がこれを拒んだため、時季変更権の行使は適法とされた。
大林ファシリティーズ事件
① 背景
- 関係者:マンションの住み込み管理員(夫婦)。
- 業務内容:
- 所定労働時間の前後に断続的な業務に従事。
- 土曜日(雇用契約上の休日)にも管理業務を実施。
- 使用者の指示:
- 管理員室の照明の点消灯、ごみ置場の扉の開閉、冷暖房装置の運転開始・停止等の業務。
- 宅配物の受渡し等の住民からの要望に対応。
② 争点
- 労働時間の定義:
- 所定労働時間外の業務が労働基準法上の労働時間に該当するか。
- 土曜日の業務時間算定:
- 土曜日に夫婦のうち1人のみが業務に従事した場合の労働時間の算定方法。
- 休日業務の範囲:
- 土曜日を除く雇用契約上の休日に断続的な業務に従事した場合、どの業務が労働時間に含まれるか。
③ 結論
- 労働時間の認定:
- 所定労働時間外に行われた断続的な業務は、管理員が使用者の指揮命令下にあったため、労働基準法第32条の労働時間に該当する。
- 土曜日の労働時間算定:
- 土曜日については、夫婦のうち1人のみが業務に従事したものとして労働時間を算定するのが相当。
- 休日業務の範囲:
- 使用者が明示または黙示に指示した業務に現実に従事した時間のみが労働基準法上の労働時間に当たる。
東亜ペイント事件
① 背景
- 関係者:全国的規模の会社の神戸営業所勤務の大学卒営業担当従業員。
- 居住状況:従業員は母親、妻、長女と共に堺市内の母親名義の家屋に居住。
- 転勤命令:従業員に対して名古屋営業所への転勤命令が出される。当該社員がこれを拒否ししたため、懲戒解雇された。
② 争点
- 転勤命令の適法性:
- 従業員に対する転勤命令が権利の濫用に当たるかどうかが争点。
③ 結論
- 転勤命令の適法性の認定:
- 従業員の居住状況やその他の事実関係(通常甘受すべき程度を著しく超える不利益はない)から、名古屋営業所への転勤命令は権利の濫用に当たらないと判断された。
旭紙業事件
① 背景
- 関係者:自己の所有するトラックを持ち込んで特定の会社の製品の運送業務に従事していた運転手。
- 業務内容:運転手は自己の危険と計算の下で運送業務に従事していた。
- 会社の指示:会社は運送物品、運送先、納入時刻の指示を行っていたが、運転手の業務遂行に関しては特段の指揮監督を行っていなかった。
② 争点
- 労働者の定義:
- 運転手が労働基準法及び労働者災害補償保険法上の労働者に該当するかどうかが争点。
③ 結論
- 労働者に非該当:
- 運転手は専属的に会社の製品の運送業務に携わっていたが、時間的、場所的な拘束の程度が緩やかである。
報酬の支払方法、公租公課の負担等についても、労働者に該当すると解するのを相当とする事情はない。
会社の運送係の指示を拒否することはできなかったものの、報酬がトラック協会が定める運賃表よりも低い額であるなどの事情を考慮したとしても、労働基準法及び労働者災害補償保険法上の労働者には当たらないと判断された。
- 運転手は専属的に会社の製品の運送業務に携わっていたが、時間的、場所的な拘束の程度が緩やかである。
あけぼのタクシー事件
① 背景
- 事件の概要:
- Xらは旅客運送事業を営む会社のタクシー乗務員として勤務し、組合に加入していた。
- Xらは懲戒解雇され、労働契約存在確認及び未払賃金の支払いを求めて提訴した。
- 第一審判決は本件解雇を不当労働行為であり無効と判断し、解雇無効の判断は控訴審判決でも最高裁判決でも維持された。
② 争点
- 中間収入の控除範囲:
- 無効な解雇期間中に労働者が得た中間収入の控除範囲が問題となり、使用者が労働者に対して有する解雇期間中の賃金支払債務のうち平均賃金の6割を超える部分から当該賃金の支給対象期間と時期的に対応する期間内に得た中間利益の額を控除することが許されるかどうか。
③ 結論
- 判決の内容:
- 使用者は労働者に対して有する解雇期間中の賃金支払債務のうち平均賃金の6割を超える部分から当該賃金の支給対象期間と時期的に対応する期間内に得た中間利益の額を控除することが許される。
- ただし、賃金から控除し得る中間利益はその利益の発生した期間が右賃金の支給の対象期間と時期的に対応するものであることを要する。
三晃社事件
① 背景
- 事案の内容:
- 会社が営業担当社員に対し退職後の同業他社への就職をある程度の期間制限し、その制限に反して同業他社に就職した退職社員に支給する退職金の額を、一般の自己都合による退職の場合の半額と定めた。
② 争点
- 退職金規定の効力:
- 同業他社への転職者に対する退職金の支給額を一般の退職の場合の半額と定めた退職金規定が労働基準法や民法に違反するかどうかが争点。
③ 結論
- 判決の内容:
- 原審確定の事実関係のもとでは、会社が退職後の同業他社への就職を制限し、その制限に反して同業他社に就職した退職社員に支給する退職金の額を一般の自己都合による退職の場合の半額と定めることは、労働基準法第3条、第16条、第24条及び民法第90条に違反しないと判断された。
時事通信社事件
① 背景
- 事案の内容:
- 労働者(科学技術庁の記者クラブに単独配置されている通信社の社会部記者)が始期と終期を特定して長期かつ連続の年次有給休暇の時季指定を行った。
- 使用者は、労働者の休暇の後半部分について時季変更権を行使した。
② 争点
- 時季変更権の行使の適法性:
- 労働者が事前の調整なしに長期の年次有給休暇を指定した場合、使用者の時季変更権の行使における裁量的判断の範囲とその適法性が争点。
③ 結論
- 判決の内容:
- 労働者が事前の調整なしに長期の年次有給休暇を指定した場合、使用者にはある程度の裁量的判断が認められる。
しかし、この判断は労働者の年次有給休暇の権利を保障する労働基準法の趣旨に沿う合理的なものでなければならない。 - 本件において、使用者が休暇の後半部分について時季変更権を行使したことは、企業経営上のやむを得ない理由により適法であると判断された。
- 労働者が事前の調整なしに長期の年次有給休暇を指定した場合、使用者にはある程度の裁量的判断が認められる。
専修大学事件
① 背景
- 事案の内容:
- 労働者災害補償保険法による療養補償給付を受ける労働者に関する事案。
- 労働者が療養開始後3年を経過しても疾病等が治らない場合に、使用者が労働基準法81条に基づく打切補償の支払いを行うことに関する問題。
② 争点
- 解雇制限の除外事由の適用可否:
- 使用者が労働基準法81条所定の打切補償の支払いをすることにより、労働基準法19条1項ただし書に定める解雇制限の除外事由の適用を受けることができるかどうかが争点。
③ 結論
- 判決の内容:
- 労働者災害補償保険法12条の8第1項1号の療養補償給付を受ける労働者が、療養開始後3年を経過しても疾病等が治らない場合には、使用者は、当該労働者に対して労働基準法81条の規定による打切補償の支払いをすることにより、解雇制限の除外事由を定める同法19条1項ただし書の適用を受けることができると判断された。
弘前電報電話局事件
① 背景
- 事案の内容:
- 勤務割における勤務予定日について労働者が年次休暇の時季指定を行った事案。
- 代替勤務を申し出ていた社員の申出を撤回させていた。
② 争点
- 時季変更権の行使の許否:
- 使用者が勤務割における勤務予定日について年次休暇の時季指定がされた場合、休暇の利用目的を考慮して勤務割変更の配慮をせずに時季変更権を行使することが許されるかどうかが争点。
③ 結論
- 判決の内容:
- 勤務割における勤務予定日について年次休暇の時季指定がされた場合でも、使用者が通常の配慮をすれば勤務割を変更して代替勤務者を配置することが可能であるときに、休暇の利用目的を考慮して勤務割変更のための配慮をせずに時季変更権を行使することは許されないと判断された。
阪急トラベルサポート事件
① 背景
- 事案の内容:
- 募集型の企画旅行における添乗員の業務が労働基準法38条の2第1項にいう「労働時間を算定し難いとき」に当たるかどうかが問題となった事例。
- 当該添乗員は時間外や休日の割増賃金の未払い賃金を請求。
② 争点
- 労働時間の算定可能性:
- 企画旅行の添乗員の業務について、その労働時間が具体的に確定されているか、または算定が難しいかどうかが争点。
③ 結論
- 判決の内容:
- 企画旅行における添乗員の業務は、旅行日程が明らかに定められ、その内容が具体的に確定されており、添乗員が自ら決定できる事項の範囲及びその決定に係る選択の幅が限られているため、「労働時間を算定し難いとき」に当たらないと判断された。
八千代交通事件
① 背景
- 事案の内容:
- 労働者が使用者から正当な理由なく就労を拒まれたために就労することができなかった日に関する事案。
- 労働者は会社から解雇を言い渡され、就労を拒否されていた。(結果としては解雇は無効となった)
- 年次有給休暇権の成立要件としての全労働日に係る出勤率の算定方法が問題となった。
② 争点
- 年次有給休暇権の成立要件:
- 使用者から正当な理由なく就労を拒まれた日が、労働基準法39条1項及び2項における年次有給休暇権の成立要件としての全労働日に係る出勤率の算定において全労働日に算入されるべきかどうかが争点。
③ 結論
- 判決の内容:
- 労働者が使用者から正当な理由なく就労を拒まれたために就労することができなかった日は、無効な解雇の場合と同様に、労働基準法39条1項及び2項における年次有給休暇権の成立要件としての全労働日に係る出勤率の算定において出勤日数に算入すべきものとして全労働日に含まれると判断された。
ことぶき事件
① 背景
- 事案の内容:
- いわゆる管理監督者に該当する労働者が深夜割増賃金を請求することが可能かどうかに関する事案。
② 争点
- 深夜割増賃金の請求可能性:
- 労働基準法41条2号に定められた管理監督者が、労働基準法37条3項に基づく深夜割増賃金を請求できるかどうかが争点。
③ 結論
- 判決の内容:
- 労働基準法41条2号所定の管理監督者に該当する労働者は、労働基準法37条3項に基づく深夜割増賃金を請求することができると判断された。
林野庁白石営林署事件
① 背景
- 事案の内容:
- 年次有給休暇制度と休暇の利用目的に関する事案。
- 労働者は他の事業場の争議行為に参加する予定であった。
- 労働基準法39条3項但書における「事業の正常な運営を妨げる」か否かの判断基準が問題となった。
② 争点
- 休暇の利用目的と事業運営への影響:
- 年次有給休暇における休暇の利用目的が労働基準法の関知する範囲にあるか。
- 労働基準法39条3項但書における「事業の正常な運営を妨げる」か否かの判断基準。
③ 結論
- 判決の内容:
- 年次有給休暇における休暇の利用目的は労働基準法の関知しないところであり、休暇の利用方法は使用者の干渉を許さない労働者の自由であると解される。
- 「事業の正常な運営を妨げる」か否かの判断は、当該労働者の所属する事業場を基準として判断すべきである。