秒トレ「社労士」判例科目に取り上げられている重要判例の「背景・争点・結論」をまとめました。
秒トレと併用し、必要に応じご活用頂ければと思います。
なお、さらに事件の詳細を知りたい方は、以下の書籍が良くまとめられており管理人も愛用しておりますので、必要に応じ御覧ください。
東朋学園事件
① 背景
- 女性従業員が出産後、産後休業を取得し、その後、会社の育児休職規程に基づいて約1年間、勤務時間を短縮して勤務。
- 会社は当該産前産後休業期間、短縮時間分は「欠勤」として処理。
- 会社の賞与支給条件(社内規定)は出勤率90%以上であるため、当該労働者への賞与を不支給とした。
② 争点
- 賞与の算定基準:
- この女性従業員が産後休業及び育児時間短縮勤務を行ったことにより、賞与額の算定基準に影響があるかどうか。
- 当該産前産後休業期間、短縮時間分を欠勤として扱うことの適法性。
③ 結論
- 判決の内容:
- 産後休業及び育児時間短縮勤務による不就労期間を出勤率の算定から除外することは、公序良俗に反する。
- 「賞与額」の計算については、産前産後休業期間、短縮時間分を欠勤として扱うことは直ちに違法とはならない。
- つまり、賞与不支給は違法だが、額を減額することまでは否定しない。
神戸弘陵学園事件
① 背景
- 労働者の新規採用契約において、その適性を評価し判断するために設けられた期間(試用期間)の法的性質に関する事案。
- 労働者は、1年間の有期契約を締結(常勤講師)し、1年後期間満了によって契約終了。
- 1年間の勤務状況を見て、本採用するかどうか決定する旨の説明を受けていた。
② 争点
- 試用期間の法的性質:
- 試用期間付雇用契約において、試用期間の満了により契約が当然に終了するかどうか。
- 試用期間中の労働者の扱いと、試用期間満了時の本採用に関する契約内容がどうであったか。
③ 結論
- 判決の内容:
- 労働者の新規採用契約において適性を評価するために設けられた期間は、特段の事情が認められる場合を除き、契約の存続期間ではなく試用期間であると解される。
- 試用期間付雇用契約により雇用された労働者が試用期間中でない労働者と同じ職場で同じ職務に従事し、使用者の取扱いにも格段異なるところがなく、試用期間満了時に本採用に関する契約書作成の手続も採られていない場合、当該雇用契約は解約権留保付雇用契約であると解される。
福島県教組事件
① 背景
- 公立中学校の教員に対する給与過払による不当利得返還請求権を自働債権とし、その後に支払われる給与の支払請求権を受働債権としてした相殺が労働基準法24条1項の規定(賃金全額払い)に違反しないかどうかが問題となった。
- 当該給与過払いは、当該教員の職場離脱行為の減額の事務処理が間に合わなかったために生じた。
② 争点
- 相殺の適法性:
- 賃金過払による不当利得返還請求権と、その後に支払われる賃金の支払請求権との相殺が労働基準法24条1項(賃金全額払い)に違反するかどうか。
- 相殺が労働者の経済生活の安定を脅かすおそれがあるかどうか。
③ 結論
- 判決の内容:
- 賃金過払による不当利得返還請求権を自働債権とし、その後に支払われる賃金の支払請求権を受働債権としてする相殺は、過払の時期と賃金の清算調整の実を失わない程度に合理的に接着した時期においてされ、かつ、あらかじめ労働者に予告されるかその額が多額にわたらない等労働者の経済生活の安定を脅かすおそれのないものである場合、労働基準法24条1項の規定(賃金全額払い)に違反しないと判断された。
日立製作所武蔵工場事件
① 背景
- 事案の内容:
- 時間外労働の義務を定めた就業規則と労働者の義務に関する事案。
- 36協定を締結し、これを所轄労働基準監督署長に届け出ている。
- 就業規則を根拠とした残業を命じたが、労働者が拒否したため、会社は懲戒処分(出勤停止)を言い渡した。
- 労働者はあくまでも反抗の姿勢であったたため、会社は懲戒解雇した。
② 争点
- 時間外労働の義務の有無:
- 使用者が労働基準法36条に基づく協定を締結し、就業規則に時間外労働を定めた場合、労働者が時間外労働をする義務を負うかどうか。
- 就業規則の規定の内容が合理的なものであるかどうか。
③ 結論
- 判決の内容:
- 使用者が労働基準法36条所定の書面による協定を締結し、これを所轄労働基準監督署長に届け出た場合、当該事業場に適用される就業規則に一定の業務上の事由があれば労働契約に定める労働時間を延長して時間外労働をさせることができる旨を定めているとき、当該就業規則の規定の内容が合理的なものである限り、労働者はその定めるところに従い、労働契約に定める労働時間を超えて時間外労働をする義務を負うと判断された。
三菱樹脂事件
① 背景
- 事案の内容:
- 憲法14条、19条(思想の自由)と私人相互間の関係に関する事案。
- 特定の思想、信条を有することを理由とする雇入れの拒否、および企業者が労働者の雇入れにあたりその思想、信条を調査することの可否についての問題。
- 労働者は、大学在籍中に学生運動等に従事していたため、試用期間満了直前に本採用を拒否された。
- 労働者は、学生活動等について、虚偽の発言や報告をしていた。
② 争点
- 思想、信条に基づく雇入れの拒否の適法性:
- 企業者が特定の思想、信条を有する労働者を雇入れることを拒むことの適法性。
- 労働者の思想、信条を調査し、採否決定にあたることの適法性。
③ 結論
- 判決の内容:
- 憲法14条や19条(思想の自由)の規定は、直接私人相互間の関係に適用されるものではない。
- 企業者が特定の思想、信条を有する労働者を雇入れることを拒んでも、それを当然に違法とすることはできない。
- 労働者を雇入れようとする企業者が、その採否決定にあたり、労働者の思想、信条を調査することは違法とはいえない。
沼津交通事件
① 背景
- 事案の内容:
- タクシー会社の乗務員が月ごとの勤務予定表作成後に年次有給休暇を取得した場合、皆勤手当を支給しない旨の約定に関する事案。
- 皆勤手当が不支給となる「欠勤」には「有給」も含まれるものとして運用されていた。
- 労基の指導が入り、「欠勤」に「有給」は含めない事に変更となったが、これまでの不支給分については請求しないと組合と合意した。
- 労働者Xはこれまでの不支給分を求めて訴えを提起した。
② 争点
- 皆勤手当の支給条件の適法性:
- 月ごとの勤務予定表に従って勤務した場合にのみ皆勤手当を支給し、勤務予定表作成後に年次有給休暇を取得した場合には皆勤手当の全部または一部を支給しないという約定が、公序良俗に反する無効なものとされるかどうか。
③ 結論
- 判決の内容:
- 皆勤手当の支給が代替要員の手配が困難となり自動車の実働率が低下する事態を避ける配慮をした乗務員に対する報奨としてされ、皆勤手当の額も相対的に大きいものではないという事情の下では、公序に反する無効なものとはいえないと判断された。
康心会事件
① 背景
- 事案の内容:
- 医療法人と医師との間の雇用契約において、時間外労働等に対する割増賃金を年俸に含める旨の合意がされていた事案。
- 年俸のうち割増賃金にあたる部分は明らかとなっていなかった。
② 争点
- 年俸制と割増賃金の支払い:
- 年俸制の雇用契約において、時間外労働等に対する割増賃金が年俸に含まれているとされた場合、実際に割増賃金が支払われたとみなすことができるかどうか。
- 年俸のうち時間外労働等に対する割増賃金に当たる部分が明確にされているかどうか。
③ 結論
- 判決の内容:
- 医療法人と医師との間の雇用契約において時間外労働等に対する割増賃金を年俸に含める旨の合意がされていたとしても、年俸のうち時間外労働等に対する割増賃金に当たる部分が明らかにされておらず、通常の労働時間の賃金と割増賃金を判別することができない場合、年俸の支払いにより時間外労働等に対する割増賃金が支払われたとは認められないと判断された。
三菱重工長崎造船所事件
① 背景
- 事案の内容:
- 労働基準法上の労働時間の意義に関する事案。
- 労働者が就業を命じられた業務の準備行為等を事業所内で行うことを使用者から義務付けられた場合の労働時間に関する問題。
- 労働者は、始業時刻前及び終業時刻後に、作業服及び保護具等の着脱や副資材等の受出し及び散水を義務付けられていた。
② 争点
- 労働時間の範囲:
- 労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間として、準備行為等に要した時間が労働基準法上の労働時間に該当するか。
- 労働契約、就業規則、労働協約等の定めによって労働時間が決定されるかどうか。
③ 結論
- 判決の内容:
- 労働基準法上の労働時間は、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間を指し、その評価は客観的に定まるものである。
- 労働者が就業を命じられた業務の準備行為等を事業所内で行うことを使用者から義務付けられた場合、特段の事情がない限り、使用者の指揮命令下に置かれたものと評価され、当該行為に要した時間は、社会通念上必要と認められる限り、労働基準法上の労働時間に該当する。
- 作業服及び保護具等の着脱や副資材等の受出し及び散水は労働時間とされた。
大星ビル管理事件
① 背景
- 事案の内容:
- ビル管理会社の従業員が泊り勤務の間に設定されている連続7時間ないし9時間の仮眠時間は、労働時間に算入されていなかった。
- 仮眠時間は、仮眠室への在室、電話応対、警報対応等が義務付けられていた。
② 争点
- 仮眠時間の労働時間性:
- 仮眠時間が労働契約上の役務の提供が義務付けられていると評価される場合、労働基準法上の労働時間に該当するかどうか。
- 仮眠時間が使用者の指揮命令下に置かれていたと評価されるかどうか。
③ 結論
- 判決の内容:
- 労働者が実作業に従事していない仮眠時間であっても、労働契約上の役務の提供が義務付けられている場合、労働からの解放が保障されていないとみなされ、労働者は使用者の指揮命令下に置かれているものであり、労働基準法32条の労働時間に当たる。
- ビル管理会社の従業員が泊り勤務の間に設定されている連続7時間ないし9時間の仮眠時間は、従業員が労働契約に基づき仮眠室における待機と警報や電話等に対して直ちに対応することを義務付けられており、そのような対応をすることが皆無に等しいなど実質的に上記義務付けがされていないと認めることができるような事情はない。
片山組事件
① 背景
- 事案の内容:
- 建設会社に雇用されていた労働者が、疾病のため現場作業に係る労務の提供ができなくなったが、事務作業に係る労務の提供は可能であり、その提供を申し出ていた状況。
- 会社は、自宅療養命令を持続し、賃金・賞与の減額を行った。
② 争点
- 労務提供の可能性と労働契約の履行:
- 労働契約上、労働者の職種や業務内容が限定されていたかどうか。
- 労働者が配置される現実的可能性がある他の業務が存在するかどうか。
- 労働者が債務の本旨に従った労務の提供をしなかったと判断できるか。
③ 結論
- 判決の内容:
- 労働者が疾病のため一部の労務の提供ができなくなった場合でも、労働契約上その職種や業務内容が限定されていない場合、事務作業など他の労務の提供が可能であり、その提供を申し出ていた場合には、労働者が債務の本旨に従った労務の提供をしなかったものと断定することはできない。
- 労働者が配置される現実的可能性がある他の業務が存在するかどうかを検討しなければならない。
電電公社小倉電話局事件
① 背景
- 事案の内容:
- 国家公務員等退職手当法に基づく退職手当の支払いと労働基準法第224条1項の適用または準用の有無に関する事案。
- 譲受人は某社員A(譲受人に対し暴行を行った)から、退職金の受給権を譲り受けていた。
- 某社員Aが強迫を理由に譲渡を取り消した。
- 当該譲受人が使用者に対して直接支払いを求めた。
② 争点
- 退職手当の賃金性と支払いの適法性:
- 退職手当が労働基準法上の賃金に該当するかどうか。
- 退職手当の受給権を譲渡した場合、譲受人が直接使用者に対してその支払いを求めることが許されるかどうか。
③ 結論
- 判決の内容:
- 退職手当は、労働基準法第11条所定の賃金に該当し、その支払いについては、性質の許す限り、労働基準法第24条第1項本文の規定が適用または準用される。
- 退職手当の支給前に退職者またはその予定者が退職手当の受給権を他に譲渡した場合、譲受人が直接使用者に対してその支払いを求めることは許されない。
シンガー・ソーイング・メシーン事件
① 背景
- 西日本の総責任者であった労働者Xが退職し、退職に際して「Y社に対していかなる性質の請求権も有しない」との書面に署名。その後、Xは退職金の支払いを求めたが、Y社は書面に基づき退職金を支払わなかった。
- 労働者Xはライバル企業に転職予定であり、また、旅費等経費の使用にも疑問点が幾多かあった。
② 争点
- 賃金に該当する退職金債権の放棄が労働者の自由な意思に基づくものであるかどうか。
- 労働基準法の全額払いの原則が自由意志の効力を否定するか。
③ 結論
- 退職金債権の放棄は、労働者Xの自由な意思に基づくものであると判断され、また、全額払いの原則を否定するものではない。よって、Y社の主張が認められた。
- 労働者Xが退職後競争関係にある他社へ就職し、Y社はXの在職中の経費に疑義を抱いていた。これらの事情を考慮すると、退職金債権放棄の意思表示がXの自由な意思に基づくものと認められる合理的な理由が存在する。
日新製鋼事件
① 背景
- 労働者Aは、勤務していた日新製鋼株式会社から住宅資金として複数の借入をしていた。
- 労働者Aが破産状態に陥り、退職を決意。退職により一括償還義務が生じるため、退職金等での返済を依頼。
- 労働者Aの破産管財人が、退職金からの控除が違法であるとして、退職金の支払いを求めて訴えを提起。
② 争点
- 労働基準法における賃金全額払いの原則と、労働者の自由意思に基づく借入金と退職金等の相殺(清算)に関する適法性。
③ 結論
- 退職金等からの借入金の相殺が労働者の自由な意思に基づいていると認め、労働基準法に違反しないと判断。
- 相殺は有効とされた。
秋北バス事件
① 背景
- 秋北バス株式会社が就業規則の規定を変更し、定年制(55歳)を定めた。
- 労働者Xは55歳に達していたため、解雇された。
- 労働者Xは就業規則変更の無効を訴えた。
② 争点
- 新たに設けられた定年制が、既存の労働契約に適用されるかどうか。
- 就業規則の法的性質と、経営主体が労働者の不利益に一方的に労働条件を変更することの可否。
③ 結論
- 新たな定年制の就業規則が合理的であり、法的規範として拘束力を有すると判断。
- 新たに設けられた就業規則(定年制)は適用されると結論。
帯広電報電話局事件
① 背景
- 日本電信電話公社が職員Xに対し、頸肩腕症候群総合精密検診の精密検査の受診を命じた。
- 職員Xはこれに従わなかった。
- 公社の就業規則上の健康検診の受診義務を根拠に、職員Xを懲戒戒告した。
② 争点
- 職員Xが業務命令である健康検診の受診を拒否し、その結果として行われた戒告処分の適法性。
③ 結論
- 健康管理上必要で合理性があると認められる検診命令は有効であり、これに違反したことを理由とする戒告処分も適法と判断した。